いるか日時計
グリニッジ天文台の中庭で面白いものを見つけた。
二頭のいるかが口にくわえているのは時刻盤。二頭の尾の交点がその時刻盤に影を落としている。そう、これは日時計だ。 かっこいい!なんて素晴らしい! Christopher St. J.H. Daniel という日時計デザイナーが設計したそうです。
この写真は9月19日の12時55分頃撮影したもの。
では機能の方はどうだろうか? 外見の美に比肩するほどの機能美を持っているかどうか、文字盤を解析してみよう。
文字盤は横長の長方形が湾曲したかたちになっており、下部に左から順に9、10、11、12、1、2,3,4,5の数字が刻まれている。これは時刻だろう。横軸は時刻表示だ。各数字の間が5本の縦線で6等分されているので、この線は10分刻みの線だ。
この縦線が直線ではなくて逆S字型に歪んでいるのが気になったが、視太陽時と平均太陽時の均時差を踏まえて、いつでも正確な平均太陽時を表示できるように目盛りを入れたらこうなったようだ。日時計が平均太陽時を表示できるとは驚いた。写真では二頭のいるかの尾の交点が1の曲線(13時)のやや手前に影を落としている。うん、ぴったり合っている(下部注記も参照)。
長方形の縦は、太陽の高度変化に対応したものだろう。縦軸は季節(月日)表示だ。太陽が高い季節は時刻盤の下部に影が落ち、低い時期は上部に影が落ちる。つまり、夏至のときに影は下辺あたりに落ち、冬至のとき影は上辺あたりを推移するのだろう。撮影日の9月19日は秋分の日の数日前なので、影は時刻盤のほぼ真ん中を左から右に推移していくはずだ。ビンゴ!
ところで普通日時計は、日時計が設置されている場所の経度と、その地に通用している標準時の基準地の経度(日本なら東経135度の明石)との差があるため、時刻を正確に表示しようとすると12時が真ん中に来ない。経度のずれの分、12時線を真ん中から左右どちらかにずらす必要があるからだ。だがこのいるか日時計はイギリス標準時のグリニッジにあるので、そのずれも発生しない。
つまりこの日時計は、均時差の問題も経度差の問題もクリアした、完璧な時計ということになる。これってすごいんじゃないか?
なんてことを考えながら時刻盤を眺めていると、中央の数字が12じゃなくて1になっていることに気がついた。え?なんだこれ? ということは真南を向いてないのか? いや、そんなことはない。ちゃんと南を向いている。真ん中は真南の線だ。影がこの上を通るときが南中で12時というのがそもそも時計の考え方だ。今、ちょうど影が真南の線のあたりにあるから、時刻は12時だよな、と腕時計を見ると13時前。日時計の時刻盤を見ても13時前。 ??? わけがわからん。
と30分くらい日時計の前で悩んだだろうか。
「!」
そうだった、今はサマータイムだった。イギリスは3月最終日曜日から10月の最終日曜日まで夏時間で時計を1時間早く進めているのだった。ということは、現時刻は本来は12時前だけど、サマータイムだから13時。
謎が解けてほっとしたが、次の疑問が生じた。「なぜデザイナーは12時を真ん中にしなかったんだろう?」 12時を真ん中にした方が素直だし、美しい。サマータイムの問題は横に注釈でもつけておけばいいだけだ。
これは推測だが、もしかしたら閲覧人数の大小で決めたのかもしれない。サマータイムの期間はおよそ7カ月あって通常時間よりも長いし、観光客は暖かい4-10月の方が11-3月よりも多いだろうから。
しかしながら、ここは東経0度、グリニッジ子午線だ。世界の時刻の基準点だ。そこにある唯一の日時計が、サマータイムで作られているのは大いに残念だった。デザインもこんなに素晴らしいのに、画竜点睛を欠いた。なんてもったいない!
※注記
その後ネットを調べていたところ、こちらのページに、この日時計の時計盤は夏至と冬至に年2回入れ替えると書かれてあった。たしかに入れ替えるなら均時差の補正はより正確になると思うが、サマータイム期間は夏至→冬至ではないので、夏至と冬至に入れ替えても時刻表記は間違ってしまう。また、写真を見ると設置場所が微妙に違う。移動したけど同一物なのか、別モノなのか、時計盤を入れ替えるとしたらいつ、何回入れ替えるのか、まだ疑問は残ります。
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