私の影がなくなる日
一年で一番暑い季節、夏。われわれ日本人が共有している、常識というのはこうだ。
冬の間には遠いところにいた太陽が、だんだんと近づいてきて春になる。春分の日を過ぎる頃には夜よりも昼の方が長くなり、昼の長さがピークになる夏至にもなると太陽が肌を焦がすようになり、梅雨が開けると本格的に夏になる。8月が一番蒸し暑く、9月も中頃を過ぎると秋の訪れを感じるようになる。
ところがこの常識は、プーケットでは全く通用しない。その理由は、太陽との位置関係が違うからだ。
日本の東京を例にとると、東京は北緯35.68度。この位置では、太陽は一年を通じて、近づいてきて遠ざかるだけだ。一番近づいてきたとき(夏至)から約2か月後が暑さのピークで、一番遠ざかったとき(冬至)から約2か月後が寒さのピークだ。そして夏至の太陽は一年を通じて一番高度が高く、強烈な熱エネルギーを与えてくれる。
ところが、北緯8度のプーケットでは、太陽は4月10日頃に一番近づいてくるのだ。そして太陽はどんどん遠ざかり、夏至でUターンして、9月1日頃にまた一番近い位置に戻ってくる。そしてまたどんどん遠ざかり、冬至でUターンして戻ってくる。一年のうちにピークが2回ある。そして夏至はピークではない。なぜこういうことが起こるのかというと、プーケットが北回帰線(北緯23.4度)と南回帰線(南緯23.4度)の間に位置しているからだ。
わかりやすいように、ちょっと図にしてみよう。これまで使ってきた「太陽が一番近くに来る日」というのは、一年の中で太陽の南中高度(南中時=お昼ごろの太陽を見上げた時に、地平線から何度の高さに太陽があるか)が一番高い日のことだが、東京とプーケットの太陽の南中高度を比較すると次のようになる。
南中高度が90度というのは、つまり太陽が真上にあるということだ。自分の足元を見ると、自分の影がほとんどない。プーケットでは年に2回、こういう時期がある。日本本土では物理的にありえない(最南端の沖ノ鳥島ならある)。プーケットに降り注ぐ太陽からの熱エネルギーのピークはこの2日にあるのであって、夏至にではない。「夏」がずれる理由がここにある。
そして面白いことに、4/10から9/1の間(上図の青線がくぼんでいるところ)は、いつもとは反対側の方向に南中時の太陽が昇っている。つまり、太陽は南ではなくて北にある。昼間の太陽の方向が南、という日本の常識はここでも成立しなくなる(そもそも「南中」という用語もおかしくなる)。
夏は7月8月にあるもの。この認識は欧米人も共有していて、イギリスでもアメリカでもSUMMERといえば7月8月だ。オーストラリアでは6か月ずれるけど、一年の四季感覚は共通している。これは世界の常識だと思っていた。しかし、タイ・プーケットがそうであるように、北回帰線と南回帰線の間に位置する国々ではそうではない。そしてこういう土地は、世界中にいくらでもあるのだ。
この記事、続きます。
【便利サイト】 こよみのページ 緯度経度を入力してその土地から見える惑星の動きをシミュレートできます。
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