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2007.09.02

『サル学の現在』 立花隆 著 を読む

「アニマ」誌に1986年~1990年の間に連載された対談が1991年に単行本となり、1996年に文庫本として発売されたもの。だから約20年前の学問的成果である点には留意が必要だが、それにもかかわらず抜群に面白い。

文庫上下巻合わせて900頁もある本著には、22人の学者と立花氏の対談という形で、京大霊長類研究所を中心に、サル学、すなわち霊長類学の創設から執筆当時までの学問的成果とその手法、裏話などが盛り込まれており、この魅力的な学問の全体像を俯瞰できる内容となっている。具体的には、(1)まず固体識別・長期観察の手法で判明したニホンザルその他のサル、チンパンジーやゴリラなどの類人猿、アメリカ大陸のホエザルなどの新世界ザルなどの社会構造(群れの有無、群れの基本単位、性行動、融和行動、群れ内の順位、群れ同士のテリトリー、群れの乗っ取り、群れからの離脱行動など)が詳細に、興味深く語られる。

続いて、(2)骨や歯の化石からサルとヒトの境界点を探る人類学的なアプローチの成果が語られ、最後に(3)それぞれの種の遺伝子分析という生化学的な手法を使って、遺伝距離と分化時間(いつ種と種が分岐したか)を求めた成果が語られる。

本書の序章は、この学問の創設者の今西錦司氏との対談だ。なぜ動物「社会」学をやろうと思ったのか、今西氏のその問題意識を私的に解釈すると、ヒトの類似種であるサル、類人猿の「社会」を知れれば、高度な社会的存在であるヒトの社会のルーツを知ることができる、となる。

今西氏自身は途中から、どれだけ類人猿を知ってもヒトの起源はわからない、と結論付けて違う方に関心が向いてしまったようなのだが、本書の終章では、今西氏の弟子にしてサル学の大家の伊谷純一郎氏が、これまでのサル学を踏まえた私見として以下のようなことを述べてまとめている。

誤解を恐れずに伊谷氏の私見をまとめると、すなわち、社会構造の進化とは同性の他者を社会の一員として容認できるかという点がポイントで、平等で容認し合うのが平等原則社会、劣位者が優位者にへりくだり自己を抑制することで容認されているのが不平等原則社会といえるが、前者は少数固体の間では成立しやすいが、大型の集団になると後者が貫かれている、霊長類社会では、群れが大型化するに従って後者の不平等原則型となっていくのだが、後者一本やりではなく、条件的平等を容認することで社会融和を図っている。不平等原則の中に条件的平等が増えていくというのが社会の進化の方向だ。人間の歴史も不平等原則と平等原則の間の弁証法的展開といえる。また、ある構造から次のレベルの構造に移行する際には不安定状態が続くが、種の進化の理由もこれで説明できるのではないか。

とにかく、学問的問題意識を持って読むもよし、サルやゴリラの社会行動を面白おかしく読むもよし、霊長類を研究する学者のユニークな生態を垣間見るのもよし、知的刺激に満ちた好著だ。

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