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2004.02.13

最高級カシミアスーツを購入

 王宮前広場を歩いていたら、25才くらいの男性が話しかけてきた。「日本人か?ナカータ、イナモート!」 ちょうど私も寺を歩き回って疲れていたので、並んでベンチに腰掛けた。彼はタマサート大学で仏教を勉強しるんだそうで、手に仏教の本を持っていた。見せてもらうと、タイ語と英語の2ヶ国語で書かれていて、どうも仏教評論のようだった。「ワットポーには行ったか?」「いや、これからだけど歩いていける距離だよね」「実は今日は儀式がある日で、タイ人しか入れない。観光客は15時から。」さすがに仏教を勉強している人だけあって、その辺のことはよく知っている。おまけに、押し付けがましくもこの寺がいい、この寺はダメと、15時までの私のスケジュールを組んでくれて、タクシーの運転手に見せればわかるように、地図の上にルートを書き込んでくれた。「トゥクトゥク(三輪タクシー)なら3箇所まわって30バーツくらいだ」 そういうと彼は、手をあげてトゥクトゥクをつかまえて、価格交渉までしてくれた。外国人価格なら全部まわれば100バーツは取られるだろうから、すごく安い。「そうそうタイシルクを買うなら、ここは政府運営で安くて品質もいいからここに行け。地図に加えといてやる。」「バスチケットは買ったか?買うならTATがあるから、ここに行け。」 私は丁寧に礼を言って、握手をして彼と別れた。気持ちのいい奴だ。

 まず彼が紹介してくれた寺は、作られてまだ新しいが、Standing, Sitting, Recliningの三体の黄金の大仏が一ヶ所にまとまっている小さい寺だった。効率的だが、大して魅力があるわけじゃない。そのせいか観光客も数人しかいない。けど一応参拝だけしておこうと本堂に進んでいくと、一人の男性が「遠慮せず入ってこい。ただし靴は脱げ」と話しかけてきた。「どこから来た?」「なぜこんな観光客が来ない小さい寺に来てる?」 矢継ぎ早に質問が来る。私も急ぐ必要もないので、本堂の中で仏像を前にしながら、彼としばらく話すことにした。彼はタナーという名前で、年齢は30台半ばといったところ。保険会社に勤めていて、以前ドイツに住んだこともあるそうだ。タイの経済は良くない、失業率も定かじゃないが10%を超えてると思う、というので、日本もここ15年くらい不景気ですよと教えてあげたら驚いていた。彼にさっきタマサートの学生に書いてもらった地図を見せてみた。「VENUS? タイシルクのお店だろ? ここはいいよ。工場だから普段は小売はしないんだけど、年に1回、1週間だけ小売をやるんだ。今日がその最終日だよ。私も実は昨日ここでカシミアのスーツを作ったばかり。完全オーダーメイドで、一度会員になると次回からは電話でも注文できるし日本にも送ってくれるよ。シャツ、ベスト、ネクタイもついてUS$450だったけど、その価値は十分ある。日本で同じものを作ったら3倍くらいするんじゃないか?」 タイでUS$450といったらサラリーマンの月収と同じくらいなので、よく買ったなぁと思ったが、保険会社勤務でまずまず潤っているのだろう。普通のタイ人からいろいろと話を聞けたことに私は非常に満足し、彼とも握手をしてその場を後にした。

 次の目的地のVENUSは、ディスプレイ商品などもなく、殺風景な小さなお店だった。まあ普段小売はしないというのだから、こんなもんなんだろう。陽気な店員が話しかけてきた。「いらっしゃい。今日は年に一度の小売セールの最終日だよ。」 タナーに聞いたとおりだ。「うちのカシミアは最高級品で、普段はヨーロッパや日本なんかに輸出してます。」これもタナーに聞いたとおりだ。ちょうど一着スーツを作って帰ろうと思っていたので、まあここでもいいか。けどディスプレイもないと選べないな。そんなこっちの様子を見透かしたかのように、陽気な店員は択一法で攻めてきた。「色は黒と紺と茶とどれがいい」「ペンストライプと無地とならどっちがいい」「サイドベントとミドルベントとノーベントではどれがいい」 こうして、気がつくと色もデザインも決まっていた。まあ最高級カシミアだから、余計なデザインは不要だ。スタンダードなものでいいから、さしたる問題はない。「シャツ2枚とネクタイもつけて、US$450です」 ベストとシャツの違いはあるが、価格もタナーの言った通りだ。ぼられてるわけではなさそうだ。やはり予め情報を持ってると安心して買い物ができる。採寸もして、小売店じゃないからカードは扱ってないというので、近くのATMで現金を下ろして支払った。

 ・・・しかし、やっぱりUS$450は高くなかったか? 戻ってきてふと思う。ガイドブックなどを見る限りスーツはUS$150くらいが相場らしい。もしやはめられたか?! ・・・振り返って考えてみると、確かに出来過ぎている。タマサートの学生がお寺の入場は外国人は15時からだからとタクシーを手配してくれなければVENUSというお店に行くことはなかったし、小さな寺でタナーに話を聞かなければ、VENUSでこんなに簡単に買うこともなかっただろう。もし全員はじめからグルだったとしたら? 大きな寺では誰だか区別がつかないので、観光客の少ない小さな寺をわざと選んだのでは? タマサートの学生が仏教の本を手にもっていたのは、私を安心させるためだけだとしたら? タナーに会ったのは偶然ではなく、学生がタナーに電話して寺で待ち伏せさせていたとしたら? タナーもいかにも偶然を装って、さりげなくVENUS情報を私に吹き込んだのだとしたら? 実は「年に1回のセール」は毎日行われてるんじゃないか? カード決済をしないというのも、キャンセル防止が目的じゃないか? ・・・そうだ、私はやっぱりはめられたんだ。しかし巧妙すぎる!!! 
 しかし、学生もタナーも、仏を題材に、仏の目の前で私をはめたわけだ。彼らはきっと死後畜生道に落ちることだろう。

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コメント

先日、バンコクに行ってきました。
私もまさに同じストーリーでスーツを買ってしまいました。
あとで考えたらやはりだまされたのかもしれないなぁと
思いました。なんかちょっとやりきれない気分ですけど、
きっとあの人たちはみんなグルだったんですね。
はじめに会った人はなんか親切な人たちにあったなぁなんて
思っていただけになんか裏切られた気分です。
でも、これがいい旅の教訓になった気がします。

投稿: ちこ | 2005.07.30 17:17

ちこさん、はじめまして。
人生、前向きにいきましょう。旅はぜひ続けてください。

投稿: ftrain | 2005.07.31 23:19

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